「ハローワークや求人広告に何十万円もかけているのに、日本人からの応募が1件も来ない……」
「特定技能の外国人採用を本格化させたいが、『受入れ枠の上限に達してビザ申請が止まるかもしれない』という話を聞いて踏み切れない」
慢性的な人手不足や職員の離職防止に頭を抱える現場の切迫感は極めて深刻です。
そんな中、介護現場の採用戦略を大きく揺るがす方針が示されました。政府は、特定技能1号「介護」分野の受入れ上限枠を「2万人」前倒しで拡大し、現行の12万6,900人から約14万6,900人規模へ引き上げる方針を固めました。
「枠が広がったのなら、当面は焦る必要はない」と胸をなでおろした事業所の方も多いかもしれません。しかし、外国人材の受入れ・定着支援を行ってきた現場目線から、率直に警鐘を鳴らします。
「枠が2万人増えたから大丈夫」と油断している事業所ほど、数カ月後の採用現場で深刻な人材不足に直面します。
本稿では、公的方針や最新データをベースに、今回の「2万人拡大」の真意、各事業所の採用に及ぼすリアルな影響、そして今すぐ介護法人が着手すべき具体的な対策をわかりやすく解説します。
1. そもそも特定技能の「受入れ上限」とは?知っておくべき2つのルール
外国人採用を初めて検討する際、最も混同されやすいのが「国全体の枠」と「自施設の枠」の違いです。特定技能「介護」には、法令上厳格に定められた2つの上限ルールが存在します。

【図解:特定技能「介護」受入れ上限の2重構造】
①【国全体の上限】枠が埋まると新規ビザがストップする仕組み
特定技能制度は、国内の労働市場への配慮や賃金水準の維持を目的として、対象産業分野ごとに原則5年間の「受入れ見込数」を定めています。これは単なる努力目標ではなく、受入れの「絶対的な上限値」として運用されます。
介護分野における最新の5か年計画(2024年度〜2028年度末まで)の国全体の上限は12万6,900人です。
※新設された「育成就労制度」の介護分野(3万3,800人枠)と合算した、介護分野全体での受入れ見込数は16万700人となります。
全国の在留者数と申請処理数の合計がこの上限に達した場合、出入国在留管理庁は「在留資格認定証明書(COE)」の新規交付を停止します。
実際、2026年4月には外食業分野が上限(5万人)に到達したため、認定証明書の交付や国内での在留資格変更申請が一時停止される事態が発生しました。内定を出して準備を進めていた現場で入国ができなくなるなど、大きな混乱が生じたことは記憶に新しいところです。
②【事業所ごとの上限】日本人等の「常勤介護職員」の人数まで
「国全体の上限枠が残っているから」といって、1つの施設で際限なく特定技能外国人を雇用できるわけではありません。介護分野では、ケアの質や現場の安全管理、適切な指導体制を維持するため、施設(事業所)ごとの上限が厳しく規定されています。
原則として、「事業所における日本人等の常勤介護職員の総数」が、受け入れられる特定技能外国人の上限人数となります(※法人全体の人数ではなく、あくまで「事業所(施設)ごと」にカウントする点に注意が必要です)。
日本人等の常勤介護職員が「8名」の事業所: 特定技能外国人は最大で「8名」まで
日本人等の常勤介護職員が「3名」の小規模事業所: 特定技能外国人は最大で「3名」まで
※ここで言う「日本人等」には、日本国籍の常勤職員に加え、永住者・特別永住者、そして国家資格を取得して在留資格「介護」へ変更した外国人職員、EPA(経済連携協定)介護福祉士が含まれます。パート・非常勤の職員や、技能実習生・特定技能1号の職員は母数(日本人等の常勤介護職員)にカウントできません。
2. 最新動向:特定技能「介護」の受入れ枠「2万人拡大」の真相
今回の見直しによって制度がどう動き、なぜ介護現場にとって「猶予期間の延長」とは言い切れないのかを整理します。
なぜ2万人増えたのか?(育成就労からの前倒し移管)
これまでの介護分野における特定技能1号の受入れ上限は、12万6,900人(2024年度〜2028年度の5年間)と定められていました。
今回の見直しにより、ここに2万人分が追加され、新上限は約14万6,900人へ引き上げられます。
背景にあるのは、外国人全体の受入れ方針の抜本的緩和ではなく「枠の振り替え」です。介護分野全体で推計されていた5年間の不足見込み数(160,700人)のうち、将来的に導入される「育成就労」枠(33,800人)としてキープされていた分の一部を、人手不足が限界に達している「特定技能1号」へ前倒しでスライドさせた形です。現場の深刻な人手不足の声に対し、国が緊急措置として枠の再配分を行いました。
【最新シミュレーション】2万人増えても「安心できない」理由
「上限が約14.7万人に増えたなら、まだ数年は枠が埋まる心配はない」と考えるのは早計です。
| 比較項目 | 従来の上限基準 | 見直し後の新上限(最新) |
|---|---|---|
| 受入れ上限数 | 126,900人 | 約146,900人 従来比 +2万人枠拡大 |
| 在留者数の実績 | 約8万人規模に到達 |
約8万人規模に到達 (毎月2,000人以上純増ペース) |
| 残りの受入れ可能枠 | 約4.7万人 | 約6.7万人 |
| 形式上の上限到達見込み | 2028年春ごろ | 2028年後半〜2029年初頭 |
| 現場の実質的な採用猶予 | 1年未満 |
今後1〜2年程度 (急速に加速する見通し) |
計算上、残枠は約6.7万人に広がりました。しかし、以下の要因によって枠の消費ペースが今後劇的に加速する可能性が高い点に注意が必要です。
- 他分野からの求職者・エージェントの流入:
外食業など他産業での上限到達・停止を受け、現地の送り出し機関や国内の人材会社が一斉に「枠が2万人拡大された介護分野」へ求職者を誘導し始めています。 - 大手介護法人の囲い込み・前倒し申請:
「いつか止まるかもしれない」という危機感を持った大手法人が、数カ月〜1年先を見越した採用枠の確保に一斉に動き出しています。
「まだ2〜3年はある」と構えていると、あっという間に手続きが混み合い、気がついたときには受入れ制限の足音が近づいているという事態に陥りかねません。実質的に有利な条件で人材を確保できる猶予は、「今後1〜2年程度」と捉えるべきです。
移民と社会:特定技能1号「介護」枠を2万人拡大 受け入れ停止回避で苦肉の策 | 毎日新聞
3. 枠拡大が介護事業所の採用に与える「3つの影響」
政策の決定は、日々の施設運営や採用活動に直接波及します。今回の受入れ枠拡大と規制緩和によって、介護事業所が押さえておくべき具体的な影響は以下の3点です。
① 突然のビザ停止リスクが遠のき、中長期の採用計画が立てられる
「来春に向けて海外から採用手続きを進めていたのに、直前で国の枠が埋まりビザが交付されない」という、外食業で起きたような最悪の採用事故リスクは当面緩和されました。
残りの受入れ枠に余裕ができたことで、半年〜1年先を見据えた計画的な採用スケジュールを安心して立てられるようになります。
② 「訪問介護」の解禁に伴い、採用した外国人材の活躍の場が広がる
特定技能外国人の活躍フィールドは、従来の特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設系サービスだけにとどまりません。
2025年4月の制度改正により、一定要件(実務経験1年以上、初任者研修修了、国際厚生事業団による適合確認など)を満たすことで、訪問介護などの在宅系サービスへの従事も可能になりました。慢性的なヘルパー不足に悩む法人にとって、施設で育成した外国人スタッフを訪問介護部門へ配置転換できるキャリアパスが開けたことは、極めて大きなメリットです。
③ 各法人による「外国人材の争奪戦」がさらに激化する
枠拡大のニュースは、これまで外国人採用をためらっていた周辺の競合施設を動かす号令にもなります。
介護は利用者の健康や命を預かる現場です。日本語でのコミュニケーションがスムーズで、利用者の表情や体調変化に細やかに気づける優秀な人材の母数は限られています。採用市場は間違いなく、意欲的な法人による「早い者勝ち」の様相を強めています。
4. 枠拡大を活かす!介護事業所が今すぐ取るべき3つの対策

では、激化する採用市場において、現場の施設長や採用担当者は今何から手を付けるべきでしょうか。実践的な3つのステップを紹介します。
ステップ1:自社の「残り受入れ枠」を正確に計算する
まずは職員名簿を取り出し、自施設で受け入れ可能な枠を正確に算出してください。具体的には以下の3点を整理します。
雇用契約上「常勤」となっている介護職員は何名いるか: 非常勤・パート、週3日勤務などの職員は除外します。
既に技能実習や特定技能で雇用している人数は何名か: これらは受け入れ側の「分子」としてカウントします。
産休・育休中の常勤職員の取り扱いはどうなっているか: 産休・育休中の日本人等(常勤)の職員は、休業中であっても原則として「常勤介護職員(分母)」の人数にそのまま含めて計算して問題ありません。
これらを整理し、「自施設ではあと何名の特定技能を受け入れられるのか」を正確な数値で把握することが第一歩です。
ステップ2:介護福祉士取得を見据えた「長期定着ルート」を敷く
特定技能1号の在留期間には、制度上「通算で最長5年」という期限が設けられています。5年かけて現場の主力リーダーに育った人材が、制度の壁によって一律で帰国してしまうのは、施設にとって大きな損失です。
そこで不可欠となるのが、在籍中に国家資格「介護福祉士」を取得させ、在留期限のない専門職ビザである在留資格「介護」へステップアップさせる育成スキームです。
特定技能「介護」から始まる受入れ好循環モデル
| 特定技能1号 → 介護福祉士国家試験合格 → 在留資格「介護」への好循環 | |
|---|---|
|
1 特定技能1号 |
採用 施設枠の中で就労(最長5年) |
| ↓ | |
| 支援内容 | 日常業務+日本語学習支援・実務者研修・国家試験対策 |
| ↓ | |
|
2 国家試験 |
介護福祉士 国家試験に合格 |
| ↓ | |
|
3 在留資格 |
在留資格「介護」へ移行 上限なし・永住や家族帯同への道が開ける |
★ 最大のメリット:
在留資格「介護」を取得した外国人スタッフは、制度上「日本人等の常勤介護職員」としてカウントされるようになります。
つまり、そのスタッフが自社の受入れ母数(分母)を「+1枠」増やしてくれるため、施設は【新たに別の特定技能外国人をもう1名受け入れられる】という好循環が成立します。
単なる「5年間の労働力」として扱うのではなく、最初から「国家資格を取得させて長期雇用する」方針を打ち出すことで、現地からも意欲の高い優秀な候補者が集まりやすくなります。
ステップ3:手続き・日本語教育を丸投げできる支援パートナーを選ぶ
特定技能外国人の受入れには、出入国在留管理庁への専門的な申請書類作成から、住居の確保、入国・帰国時の送迎、定期的な面談や生活オリエンテーションまで、法令で定められた多岐にわたる「義務的支援」が発生します。
これらをすべて人手不足にあえぐ現場のリーダーや管理職が背負い込むと、本来の介護業務や日本人職員のマネジメントが立ち行かなくなります。
入管手続きやビザ申請を遅滞なく確実に代行してくれるか
現場の申し送りや記録で困らない「介護現場の実務日本語」教育(eラーニング等)を提供しているか
文化の違いによるトラブルやホームシックに対し、母国語で迅速にメンタルケアを行ってくれるか
これらを現場視点で一括サポートできる登録支援機関を早期に見極め、パートナーシップを組んでおくことが受入れ成功の鍵となります。
女性の特定技能人材に朗報!産育休は5年間にカウントしない特例
5. 特定技能「介護」の受入れ上限に関するよくある質問

Q1. 2万人枠が増えたら、申請を出してから入国までの期間は短くなりますか?
A. 入国までの期間は短くなりません。むしろ、通常より前倒しのスケジュールが必要です。
受入れ枠の拡大と、出入国在留管理庁(入管)の審査処理能力は別物です。今回の枠拡大に伴い、全国の介護事業所から申請が集中することが予想されます。そのため、面接・内定から実際の配属(入国・就労開始)までは、従来通り4〜6カ月程度かかります。
「来期の人員配置に間に合わせたい」という場合は、今すぐ選考の準備を始める必要があります。
Q2. 小規模なデイサービスやグループホームでも特定技能外国人を採用できますか?
A. 要件(利用者の身体介護を行う事業所であること)を満たしていれば、採用可能です。
通所介護(デイサービス)や認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などでも、特定技能外国人を雇用できます。ただし、前述した「事業所ごとの上限ルール(日本人等の常勤介護職員の総数まで)」が厳密に適用されます。
そのため、小規模事業所の場合は「まず常勤職員の人数に合わせて1〜2名を受け入れる」というステップを検討するのが現実的です。
Q3. 2027年から始まる「育成就労」と「特定技能」は何が違うのですか?
A. 育成就労は「未経験者を育てる制度」、特定技能は「即戦力」という位置づけです。
従来の技能実習を発展的に解消して新設される「育成就労」は、3年間で基本スキルと日本語を身につけさせる育成制度です。この育成就労を良好に修了した人材が、試験免除等で「特定技能1号」へと移行する設計になっています。
今後も、介護現場の最前線で主力を担う即戦力ビザのコアは「特定技能」であり続けます。
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